「おっおーお返事まだカナ?」というフレーズを、TikTokやYouTubeで一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。吉本おじさんさんが制作した楽曲「お返事まだカナ💦❓おじさん構文😁❗️」は、2025年5月の公開から現在までに2500万再生を突破し、Billboard JAPANのニコニコ VOCALOID SONGSチャートで首位を獲得するなど、まさに社会現象となっています。
インターネットで話題の「おじさん構文」をテーマにしたこの楽曲は、なぜここまで多くの人の心を掴んだのでしょうか。この記事では、楽曲の魅力とヒットの理由を徹底分析していきます。
楽曲の基本情報と特徴
「お返事まだカナ💦❓おじさん構文😁❗️」は、制作者の吉本おじさんさんが「おじさん役」として登場し、ボーカルの雨衣とメッセージアプリ風の会話を繰り広げる構成になっています。
ボーカルの「雨衣(うい)」は、人気イラストレーター・VTuberのしぐれういさんの声をベースに開発された音声合成エンジン「VoiSona」のライブラリです。透明感がありながらどこかシニカルな声質が、「おじさん構文」の重さを軽快に断ち切る絶妙なミスマッチを生み出しています。
MVはメッセージアプリの画面を模したデザインで、おじさんの一方的なメッセージと、それに対する雨衣の冷静なツッコミが展開されます。この視覚的な分かりやすさも、ショート動画プラットフォームでの拡散に大きく貢献しました。
「無名ボカロP」から一気にブレイク
吉本おじさんさんは、この楽曲で一気に知名度を上げた「急上昇型のボカロP」です。それまで目立ったヒット曲は確認できず、「かわいいだけのおんなのこ」など数曲のリリースがある程度でした。
しかし、社会的なトレンドである「おじさん構文」というミームと、当時リリースされたばかりの「VoiSona 雨衣」を組み合わせるという戦略的なテーマ選びが功を奏し、まさに現代のインターネット発クリエイターらしいブレイクを果たしました。
Billboard JAPANのチャートで初の首位獲得は、ボカロPとしてのキャリアにおいて非常に大きな成果であり、この一曲が彼の活動における最大の転機となったことは間違いありません。
米津玄師「マトリョシカ」からの影響
音楽的な観点から見ると、この楽曲には米津玄師がハチ名義で発表した「マトリョシカ」の影響が感じられます。
高速で疾走感のあるドラムパターンと、やや硬質で電子的な音色は、「マトリョシカ」をはじめとするボカロ初期のデジタルロック的な質感と共通しています。アップテンポで複雑なリズムは、「ボカロロックの王道」スタイルを現代的にアレンジしたものと言えるでしょう。
テーマ性においても、「強い愛情的なものを届ける」という共通点があります。「マトリョシカ」が内面的なエネルギーの混沌とした発散であるのに対し、「おじさん構文」はそれが具体的なメッセージとして外部に発信され、他者(雨衣)に評価される、という現代的なコミュニケーション問題に昇華されています。
どちらも「届かない/届いていない」という悲哀を含んでいますが、「おじさん構文」はそれをコメディやシニカルなテーマとして表現し、大衆的な消費を可能にした点が、現代のヒットに繋がったと考えられます。
「雨衣」起用が生んだ相乗効果
この楽曲のヒットにおいて最大の「計算されたバズる要素」は、間違いなくボーカル「雨衣」の戦略的起用です。
しぐれういさんの楽曲「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」は、その中毒性から社会的なミームとなり、ショート動画で大ヒットしていました。「雨衣」を起用することで、吉本おじさんさんはこの熱狂的なファン層と拡散力を間接的に引き継ぐことができたのです。
「ロリ神レクイエム」の次に、その声を元にした「雨衣」の曲が流行するという流れ自体がニュース性を持ち、実際にしぐれういさんご本人が「おじさん構文」をカバーしたことも、この連鎖を決定づけました。
また、「メスガキ」的なキャラクター性を持つ幼い声質は、「おじさん構文」を突き放すのに最適でした。「キモいけど、面白い」という現代の若者のシニカルな感情を代弁するのに、この声は理想的だったのです。
計算尽くされた「空席」の確保
「おじさん構文」のヒットは、吉本おじさんさんのサウンドメイクのセンスだけでなく、インターネット文化とマーケティング戦略に長けた嗅覚によって生み出された「計算尽くされた成功」の好例です。
「おじさん構文」の流行はありましたが、それをテーマにした決定的なボカロ曲の「空席」がありました。吉本おじさんさんは、その空席を「雨衣」という当時最も注目されていた新ボーカルライブラリで埋めるという、非常に大胆で正確な戦略を実行したのです。
楽曲では「おじさん構文」を「愛を言葉にできるのは才能かもです」と評する新視点も提示されており、単なるネタ曲ではなく、現代のコミュニケーションに対する洞察も含まれています。
まとめ:トレンドを捉えた完璧な戦略
「お返事まだカナ💦❓おじさん構文😁❗️」の大ヒットは、社会的ミームの的確な活用、話題性のあるボーカルライブラリの起用、音楽的な完成度の高さ、そしてショート動画時代に最適化されたMVデザインという、複数の要素が完璧に噛み合った結果です。
無名だったボカロPが、インターネット文化への深い理解とマーケティング戦略によって一気にブレイクを果たした事例として、今後のクリエイター活動における重要な参考例となるでしょう。
「おじさん構文」というコミュニケーションの問題を、ポップで親しみやすい形にパッケージングしたこの楽曲は、これからも多くの人に愛され続けるはずです。
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